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東京高等裁判所 昭和59年(行コ)43号 判決

東京都台東区蔵前三丁目一番二号

(送達場所

千葉県八千代市八千代台西八丁目一二番二の一六号)

控訴人

株式会社ナガミネ

右代表者代表取締役

古瀬庄四郎

右訴訟代理人弁護士

渡部晃

有吉眞

同区蔵前二丁目八番一二号

被控訴人

浅草税務署長

山本作市

右指定代理人

山崎まさよ

三浦道隆

江口厚太郎

大原豊実

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和五七年六月二三日控訴人に対してなした昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五六年三月期」という。)の法人税を更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び立証の関係は、当審における新たな主張として次に付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一  控訴人のような零細企業法人が倒産して担保権を実行される事態に陥った場合、所得税法九条一項一〇号の基底にある憲法二五条の最低生活保障の要請及び同法一四条により導かれる応能負担の原則から、零細企業法人を個人と同視しても何ら租税行政の安定性を侵すことはなく、かえって、租税法規の形式的適用がもたらす弊害を除去し、憲法上の要請を満たすこともできる。また、実質的に見ても、かかる零細企業法人に対し土地譲渡に対する分離重課税がなされれば、当該法人の事業主の生活が困窮するのであるから、右事業主の最低生活を保障するのも憲法上の要請と言い得る。

二  前記のような憲法上の要請から、控訴人のような零細企業法人に法人格否認の法理を適用して所得税法九条一項一〇号による救済をはかるのが、本件における妥当な解釈運用である。

(被控訴人の主張)

零細企業法人に対し土地譲渡に対する分離重課税がなされれば当該法人の事業主の生活が困窮するとの控訴人の主張は、株式会社における株主の有限責任制度を看過した議論であり、失当である。

また、法人格否認の法理は、法人格の濫用等により取引の相手方が不当に害される場合、これを保護しようとする法理なのであるから、会社という法形態を選択、利用した者自身が税金を免れるためにこの法理を援用することは許されない。

理由

当裁判所は、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断するが、その理由は、原判決の理由説示と同一(ただし、原判決八丁表五行目の「3(一)」を「3(三)」と改め、九丁裏一行目「資力を」の前に「控訴人が零細企業であり」を加え、同一行目から二行目にかけてのかぎ括弧及び同二行目の「原告が」をそれぞれ削り、同六行目の「できない。」を「できず、憲法一四条一項、二五条一項の各立法趣旨から右立論を導くこともできない。」と改め、次行との間に「本件において控訴人が自らその法人格を否認することが許されないことは、被控訴人主張のとおりである。」を加える。)であるから、これを引用する。

よって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中永司 裁判官 宍戸清七 裁判官 安部剛)

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